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名古屋地方裁判所 昭和40年(ヨ)271号 判決 1965年11月01日

申請人 仲秋恵子

被申請人 財団法人名古屋港湾福利厚生協会

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

(申立)

一、申請人

被申請人が申請人に対し、昭和四〇年二月二三日なした解雇の意思表示の効力を本案判決確定に至るまで停止する。被申請人は、申請人を被申請人の従業員として取扱い、申請人に対し昭和四〇年二月以降毎月二五日限り金二七、〇〇〇円を仮に支払え。被申請人は、申請人が被申請人(臨港病院)看護婦寮、職員食堂及び売店を利用することを妨害してはならない。

二、被申請人

主文同旨

(申請の理由)

一、申請人は昭和三八年四月被申請人協会に雇用され、被申請人協会の経営する臨港病院に看護婦として勤務していたところ、被申請人協会は昭和四〇年二月二三日申請人に対し、就業規則第三六条第三号に該当する事由があるとの理由で解雇の意思表示をなした。

二、本件解雇の意思表示は次の各理由により無効である。

(一)  申請人は日本民主青年同盟(以下民青という)に加入しているものであるが、本件解雇の意思表示は、被申請人協会が臨港病院内に申請人と主張行動を同じくするものが増加することを忌み嫌つて予防的になしたものである。

(二)  被申請人協会は、本件解雇の意思表示をなすに際し申請人に対し、いわゆる解雇予告手当の現実の提供は勿論口頭の提供もなさなかつた。

(三)  被申請人協会は本件解雇に関し就業規則を援用しているが、被申請人協会には就業規則は存在せず、又申請人を含め被申請人協会全従業員は、就業規則の存在及び内容を知らされたことがないので就業規則としての効力を有しない。

(四)  仮りに就業規則が有効に存在するとしても、申請人には就業規則第三六条第三号に該当する事由は存在しない。

三、被申請人協会は、本件解雇の意思表示をなした昭和四〇年二月二三日以来、申請人を被申請人協会の従業員として取扱わず、申請人の労務の提供を受領することを拒否して申請人に対し賃金の支払をなさない。申請人は、本件解雇の意思表示がなされた当時、被申請人協会から毎月二五日に月額金二七、〇〇〇円の賃金の支払を受けていた。

申請人は、被申請人協会の管理する臨港病院看護婦寮に居住し、且つ臨港病院の職員食堂、売店などを利用していたが、被申請人協会は本件解雇の意思表示をなして以来申請人に対し看護婦寮の居住、職員食堂及び売店の利用を拒否し妨害している。

四、申請人は他に資産なく賃金のみにより生活を維持している賃金労働者であり、且つ申請人の看護婦という職種は熟練を要する職種であり、職務に携わらない場合は技能が著しく低下するものである。

(被申請人の答弁)

一、申請の理由第一項の内、解雇の意思表示をなした月日は否認する、その他の事実は認める。被申請人協会は昭和四〇年二月二〇日申請人に対し、同日付で解雇する、同月二二日までに退職願を提出すれば依願退職として取扱う旨申し渡した。申請人は右退職願を提出しなかつた。

二、申請の理由第二項の各事実は否認する。

(一)  右(二)の事実について、被申請人協会は、本件解雇の意思表示と同時に昭和四〇年二月二五日までに看護婦寮から退寮するよう申し渡し、退寮の際に解雇予告手当を庶務課へ受取りに来るよう申し渡した。更に同月二三日再度看護婦寮の退寮と、退寮の際解雇予告手当を庶務課へ受取りに来るよう申し向け、次いで同年三月三日解雇予告手当金二九、九〇〇円を申請人に呈示し受領を促したが、申請人は受領を拒否したので、同月四日名古屋法務局へ供託した。

(二)  右(三)の事実について、被申請人協会は、昭和二五年一〇月一日に就業規則を制定し、そのころ所轄の名古屋南労働基準監督署に届け出た。そして、就業規則を臨港病院庶務課に備え付けている外、各課室に配布し、臨港病院職員組合へも配布し、一般の閲覧に供し得るようにしている。

三、申請の理由第三項の事実は認める。

(被申請人の主張)

一、被申請人協会は名古屋港湾における港湾労働者の福利厚生を充実強化し、港湾荷役の改善を図り、もつて船舶運航能率の増進に寄与することを目的として設立された財団法人である。そしてその事業として臨港病院の経営の外、港湾労務者現場休憩所、労働会館等の経営、管理を行つている。臨港病院においては、臨港病院の人事その他一般の管理、運営に関する権限は院長に一任されている。

二、本件解雇の理由は次のとおりである。

(一)  申請人は平常から仕事に積極性がなく、熱意を欠き、物事を忘れ勝ちであり、勤務態度に規律性を欠き、又上司の注意に対しても改めようとしなかつた。そのため同僚との間の融和を欠き、臨港病院において年二回定期的に行われる看護婦の配置替においても勤務場所の責任者が申請人を引取ることを躊躇し、配置替にも苦慮する状態であつた。

(二)  申請人は昭和三九年九月以降殆んど毎日の如く遅刻し、又勤務時間中職場を離れ、洗面や朝食をとることが度々あつた。これに対し同僚が申請人をかばつて上司に報告しないことを幸にして改めようとしなかつた。

(三)  就業規則において、欠勤する場合は予め前日までに届出る旨、又看護婦宿舎規則によれば看護婦寮居住者が外泊する場合は予め室長などに届出る旨それぞれ定めているにもかかわらず、申請人は右届出をなさず無断外泊し且つその翌朝出勤時刻を過ぎて外部から電話で「寝すぎた」とか「頭が痛い」などの理由で突然欠勤したり、遅刻することが度々あつた。そのため同僚の看護婦に代勤などの迷惑をかけ、又上司や同僚の注意に対しても陳謝せず改めようとしなかつた。

(四)  申請人は昭和四〇年一月下旬臨港病院整形外科第一病棟に勤務中、入院患者への投薬につき、薬を患者毎の袋に入れる際、入院患者二二、三名中七名分につき当該患者以外の患者の薬を入れるという投薬上の間違いをした。右間違いについて翌日長谷川主任看護婦が申請人に注意を与えたところ、申請人は「あの時は眠むかつた」と返答し謝罪もせず又将来注意する旨の態度をも示さなかつた。

過去においても、右に類似する担当医師の指示を無視するような行為があつた。

(五)  申請人は、同年二月二日無届外泊し、翌同月三日出勤時刻経過後外部から電話で代理人を通じ「気分が悪いから休む」旨の連絡をし欠勤した。同月四日長谷川主任看護婦が申請人に「予告なく欠勤されることは他の同僚に皺寄がきて職場の秩序が乱れて困るから、それいうことをしないよう」にと注意を与えたところ、申請人は「休んでもその分だけ給料から差引かれるんだから休んでも当然だと思う。他の者に皺寄がいくのは病院の機構が悪いのだから仕方がない」「そのことは院長のところでも何処へでも言つていくからどうぞ」と返答し、更に「これからも休んでやる」と放言し、何ら改悛の情が認められなかつた。

(六)  被申請人協会は申請人の態度を改めさせるべく、同月四日臨港病院院長室において、伊藤院長らが申請人から弁解を聴取し、伊藤院長が申請人に、「就業直後の電話連絡のみで休むことは無断欠勤にも等しい、このような休み方は病院として困る、欠勤しても給料を引かれるから当然だ、人員が不足し困つていることは病院の責任である、もつと今後も休んでやるなどと放言されては困る。このようなことを改めてもらわなければ病院をやめてもらわねばならない」旨注意したところ、申請人は「考えさせていただきます」と返答したのみで、何ら陳謝せず、又将来その態度を改めようとする態度をも示さなかつた。又臨港病院職員組合会長鬼頭司郎が申請人に対し、病院側に陳謝するよう勧告したが、申請人は同僚に対しては済まないが労使関係の使にあたる病院側に対しては抵抗を感じて謝まれない旨返答した。更に同月八日臨港病院事務長萩野政一、庶務課長辻幹司の両名が申請人に対し謝罪改心方を促したが、申請人は「私は少しも悪いところは無い、どうしてもやめよというなら法廷で争そつてはつきりさせたい」旨申し向けた。その後も申請人は陳謝することなく、又態度を改めようともしなかつた。

(七)  同年二月七日申請人は、日曜日の日直勤務につくことになつていたが、前日から無届外泊をし、当日出勤時刻である午前八時三〇分を過ぎた午前八時五〇分ころ出勤し、前番者に迷惑をかけながら平然として改悛の情も認められなかつた。

三、就業規則第三六条は

従業員が次の各号の一つに該当するときは、組合と協議の上法の定める手当を支給して解雇する。

1  精神若しくは身体に故障があるか又は虚弱老衰若しくは病気のため業務に堪えないと認めるとき

2  やむを得ない業務の都合によるとき

3  その他前二号に準ずるやむを得ない事由のあるとき

旨定めている。被申請人協会は、申請人の前記各行為、態度につき、右第三六条第三号に該当するものとして、昭和四〇年二月四日申請人の所属する臨港病院職員組合に対し、同組合会長鬼頭司郎を通じ協議を申し入れ、同月一九日右鬼頭会長及び副会長宮地某を通じ、同月二〇日付で申請人を解雇したい旨申し入れ協議し、右両名から病院側の処置にまかせる旨の回答を得た上本件解雇の意思表示をなした。

(被申請人の主張に対する申請人の答弁)

一、被申請人の主張第一項の事実は知らない。

二、同第二項について

(一)、(一)の事実は否認する

(二)、(二)の事実は争う

(三)、(三)の事実の内看護婦宿舎規則に外出、外泊の規定があることは認めるが、慣行として右規則とは別個の取扱いがなされていた。その他の事実は否認する。

(四)、(四)の事実の内被申請人主張の如く薬袋へ間違つて薬を入れたことは認めるがその他の事実は否認する。申請人は翌日長谷川主任看護婦に陳謝した。申請人主張の如き投薬の間違いは他の看護婦にも存在し、それは臨港病院における過重な労働条件に基づく結果生じたことである。

(五)、(五)の事実の内申請人が昭和四〇年二月二日外泊し、翌同月三日代理人を通じ欠勤を申し出たことは認めるが、その他の事実は否認する。

(六)、(六)の事実の内申請人が、伊藤院長、鬼頭会長、萩野事務長及び辻庶務課長の両名と、それぞれ面談したこと、申請人が謝罪しなかつたことは認めるが、面談の各内容その他の事実は否認する。

(七)、(七)の事実は否認する。二月七日申請人は午前八時四〇分ころ出勤したのであり、一〇分の遅刻について関係者に謝罪した。

三、同第三項の事実は知らない。

(証拠省略)

理由

一、証人萩野政一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、乙第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、被申請人協会は、港湾労働者の福利厚生施設の整備及び福利厚生事業を推進し、もつて港湾作業能率の向上を図り、港湾の発展に寄与することを目的とした財団法人であり、その事業として臨港病院の経営その他の事業を行つていること、臨港病院の人事その他一般の管理、運営に関する権限は院長に一任されていることが認められる。

申請人は昭和三八年四月被申請人協会に雇用され、臨港病院の看護婦として勤務していたところ、被申請人協会から就業規則第三六条第三号に該当する事由があるとして解雇の意思表示を受けた(その月日については争がある)ことは当事者間に争はない。

二、証人萩野政一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五号証、証人萩野政一の証言及び申請人本人尋問の結果によると、昭和四〇年二月二〇日に臨港病院事務長萩野政一が院長の命により、申請人に対し同日付で解雇する旨申し渡したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

三、次に本件解雇が無効であるとの申請人の各主張につき判断する。

(一)  申請人本人尋問の結果によると、申請人は被申請人協会に雇用される以前から民青に加入していたこと、そして政治的な集会その他の会合に出席するなどの活動を行つていたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。しかし本件解雇の意思表示が、申請人が民青に加入していたことないしは申請人主張の如く臨港病院内に申請人と主張、行動を同じくする者が増加するのを防ぐことを理由になされたものと認めるに足る充分な証拠はない。

(二)  申請人の解雇予告手当の提供がなされなかつたので本件解雇の意思表示は無効であるとの主張につき判断する。成立に争のない乙第七号証前記乙第一五号証、証人萩野政一の証言及び申請人本人尋問の結果によれば、昭和四〇年二月二〇日本件解雇の通告がなされた際、それと同時に萩野事務長は申請人に対し、「同月二二日までに退職願を提出すれば依顧退職として取扱う、同月二五日までに看護婦寮から退寮されたい、解雇予告手当は看護婦寮を退寮するとき支払うからその時に庶務課へ受取りに来るよう」にと申し渡し、申請人が退職願を提出しなかつたので同月二三日、萩野事務長が申請人に対し、「退職願を提出しないので同月二〇日に通告した通り同月二〇日付で解雇になつている、解雇予告手当は看護婦寮を退寮する際庶務課へ受取りに来るよう」にと申し渡したこと、申請人は本件解雇につき承認し得ないとして争つていたので、同年三月三日院長が申請人に対し解雇予告手当として三〇日分の平均賃金、金二九、九〇〇円を封筒に入れて呈示し受領方を求めたが申請人は受領を拒否した、そこで被申請人協会は同月四日名古屋法務局へ解雇予告手当金二九、九〇〇円を供託したことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。解雇予告手当は新たに就職するまでの間の労働者の生活を保障するためのものであるから、条件その他の負担を附けることは許されないものと解する。前記認定の事実によれば、同年二月二〇日、及び二三日に被申請人協会が申請人になした解雇予告手当の受領催告は、いずれも申請人が看護婦寮から退寮することが条件となつており、従つて本旨に基づく提供とは言えないので、解雇予告手当の提供があつたものとは認められず解雇の効力は生じない。しかし、解雇の意思表示をなす際解雇予告手当の支払がなされなかつたとしても、後に解雇予告手当の支払がなされればそのときに解雇の効力が生じるものと解するところ(最高裁昭和三五年三月一一日判決民集第一四巻第三号等参照)前記認定事実によれば、被申請人協会は同年三月三日申請人に対し金二九、九〇〇円の解雇予告手当を呈示し受領を求めたのであるから、本件解雇はそのときに効力が生じたものと解する。従つてこの点に関する申請人の主張は採用し得ない。

(三)  申請人は就業規則は存在せず、又従業員に周知させていないので無効である旨主張するのでこの点につき判断する。証人萩野政一及び同鷲見綾子の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人鬼頭司郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一四号証、前記乙第一五号証、乙第一六号証、証人鷲見綾子、同長谷川恵子、同鬼頭司郎、同萩野政一の各証言によれば、被申請人協会は昭和二五年一〇月一日付で就業規則を制定し、名古屋南労働基準監督署へ届出をなしたこと、制定以来一部を臨港病院庶務課に備え付け、又一部を臨港病院の従業員で組織する臨港病院職員組合に配布し、右職員組合はそれを会長が保管し、全従業員が閲覧しうるようにしていることが認められ、右認定に反する証人原田智恵子、同山沢良江、及び申請人本人の供述部分は前記各証拠に照らしてたやすく信用し得ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。よつてこの点に関する申請人の主張は採用し得ない。

四、次に本件解雇理由につき判断する。

(一)  証人長谷川恵子の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人萩野政一の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、証人鷲見綾子の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、証人山沢良江、同鷲見綾子の各証言を綜合すると、申請人は、回診中他の看護婦が仕事に従事している際にそれを傍観していることがあつたり、又勤務時間中、売店などで飲食していることがあり上司から注意を受けていたこと、平常仕事に無関心で熱意なく、積極性に欠けていたこと、手術室に勤務していたころ、手術室婦長から上司に対し、申請人は仕事に積極性がない、物事をよく忘れる、熱意がないなどの苦情が持ちこまれ、配置替の要求がなされていたこと、年二回定期的に行われる看護婦の配置替について、責任者が申請人の引受けを躊躇するため配置替を行うにつき、鷲見総婦長は苦慮していたことが認められる。

(二)  前記乙第一〇号証、証人萩野政一の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証人山沢良江、同長谷川恵子、同鷲見綾子の各証言、及び申請人本人尋問の結果によれば、申請人は昭和三九年八月ころから二、三分乃至一〇分くらいの遅刻を度々行うようになつたこと、被申請人協会は遅刻について厳格な取扱いはしていなかつたこと、申請人の上司たる長谷川主任看護婦は申請人に対し、申請人の遅刻につき昭和三九年九月中旬他の病棟との統制がとれないので遅刻しないよう注意し、更に同月下旬にも注意を与えたが、申請人の遅刻は改められなかつたことが認められる。

(三)  前記乙第二号証、証人萩野政一の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、成立に争のない乙第九号証の一、二、前記乙第一〇号証、乙第一一号証、証人山沢良江、同長谷川恵子の各証言、申請人本人尋問の結果を綜合すると、就業規則には病気その他やむを得ない事由により欠勤するときは、その理由と日数を事前にもしその余裕のない場合は事後速やかに届け出なければならない旨規定されていること、看護婦宿舎規則には外泊をせんとする者はその前日までに所定の届出をなすことと規定されていること、申請人は看護婦宿舎に居住していたが、よく浜松の自宅へ帰えり、外泊届を出すことなく自宅で宿泊していたこと、自宅で宿泊した際には当日出勤時刻近くになつて電話で欠勤又は遅刻の申出をなし欠勤遅刻をなしたことが昭和三九年一〇月以降四回あり、その事情は次の如くであつたこと、

(1)  昭和三九年一〇月上旬、出勤時刻前に、浜松から電話にて遅刻する旨申し出て同日午前一一時三〇分ころ出勤し、同僚と夕べは一晩中母と話をしていたから眠くて起きられなかつた旨話していた。

(2)  同年一一月一〇日出勤時刻ころ、浜松から電話にて頭痛のため欠勤する旨申し出て欠勤した。

(3)  昭和四〇年一月中頃午前七時三〇分ころ浜松から電話にて、寝すぎたので遅刻する旨の申出があり遅刻した。

(4)  同年二月三日午前八時過ぎころ浜松から電話にて気分が悪いので欠勤する旨申出があり欠勤したが、同日帰寮し、夕刻上司たる長谷川主任看護婦と顔を合わせたが、同人に対し同日の欠勤についての謝罪その他何らの挨拶をもしなかつた。

右の如き申請人の遅刻、欠勤の態度に関し、同月四日朝長谷川主任看護婦が申請人に対し、浜松へ帰えると電話一本で遅刻又は欠勤するが勤務に関しどう考えているかと問いただし申請人が一人休むことによつて他の同僚に皺寄がくることについてはどうかと言つたところ、申請人は、欠勤してもその分だけ給料が差し引かれるから欠勤しても当然と思う、他の者に皺寄がいくのは病院のシステムが悪いから仕方がないと返答し、長谷川主任看護婦がその場を離れると、申請人はこれからももつと休んでやると言つたことが認められる。

(四)  申請人が昭和四〇年一月下旬、臨港病院整形外科第一病棟で勤務中、入院患者へ薬を配布するため薬を患者毎の袋に入れる際入院患者二二、三名中七名分につき当該患者以外の他の者の薬を入れるという間違いを起こしたことは当事者間に争はない。前記乙第一〇号証、乙第一一号証証人山沢良江、同長谷川恵子の各証言を綜合すると、右投薬の間違いに関しては長谷川主任看護婦が患者へ配布する際に発見し事なきを得たこと、その翌日同人が投薬の間違いを注意したところ、申請人は眠むかつたのでと返答したのみで謝罪などをしなかつたことが認められる。又前記乙第一〇号証、乙第一一号証、証人長谷川恵子の証言及び申請人本人尋問の結果を綜合すると、一患者に対し、従来葡萄糖注射を行つていたが医者の指示により昭和三九年一二月七日夕刻からイー、エス、プロタミンに変更されたところ、申請人は同月一二日従来の葡萄糖注射を行おうとし、久保田看護婦に間違を指摘され、長谷川主任看護婦から変えるよう指示されたにもかかわらず葡萄糖もイー、エス、プロタミンもあまり変りないとそのまま葡萄糖の注射を続行したことが認められる。

(五)  前記乙第一四号証、乙第一五号証、乙第一六号証、証人萩野政一、同鬼頭司郎の各証言、申請人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、臨港病院伊藤院長は昭和四〇年二月四日前記(三)記載の事実の報告を受けたので、申請人を呼び申請人に対し、当日朝の電話連絡のみで欠勤することは無断欠勤にも等しい、又欠勤しても給料を差し引かれるからよい、人員不足で困つているのは病院の責任である。今後も休んでやるなどと放言することは困る。このようなことは改めて欲しい改められなければ病院を辞めてもらわねばならない旨注意したところ、申請人は考えさせていただきますとのみ返答し退席したこと、同月八日臨港病院職員組合会長鬼頭司郎が申請人に対し病院側へ謝罪するよう勧告したが申請人は、同僚には済まないが労使関係の使である病院側へは抵抗を感じて謝まれない旨返答したこと、同日萩野事務長が申請人に対し、二月四日に考えさせていただきますといつていたがどう考えたかと問いただしたところ、申請人は無断欠勤をしていないから辞めることは納得できない、辞めろというのなら法廷で争う旨返答したことが認められる。

(六)  前記乙第一〇号証、申請人本人尋問の結果によると、申請人は同年二月七日、日曜日の当直勤務であつたところ、約一〇分くらい遅刻して出勤したことが認められる。

(七)  以上各認定に反する証人山沢良江、申請人本人の各供述部分は前記各証拠に照らしてたやすく信用できず、他に右各認定を覆すに足る証拠はない。以上認定事実の内電話による欠勤又は遅刻については、前記乙第二号証によれば就業規則において欠勤については事前に届け出なければならない旨、遅刻については所属長に届け出てその許可を受けなければならない旨定めていることが認められるがその方式その他については何らの定めもなく、従つてそれが就業規則に反するものとはいえない。又無断外泊は、それ自体寮の秩序を乱すとしても当然に職場の秩序を乱すものとは認められない。しかしそれらを除いた前記認定の申請人の勤務態度、投薬の間違、注射の間違、その他の言動を綜合すれば、申請人の看護婦としての適格性が疑われ、職場の秩序規律を乱すもので、前記乙第二号証により認められる解雇の理由としての就業規則第三六条、第2号やむを得ない業務の都合によるとき、第3号その他前二号に準ずるやむを得ない事由のあるときとの規定の、第2号に準ずる第3号に該当するものと認められ、よつて被申請人協会の本件解雇の意思表示は正当な理由に基づいてなされたものと認められる。

五、前記乙第一四号証、乙第一五号証、乙第一六号証、証人鬼頭司郎、同萩野政一の各証言によれば、臨港病院院長は、昭和四〇年二月四日本件解雇につき臨港病院職員組合に対し、同組合会長鬼頭司郎を通じて協議の申し入れをなし、更に同月一九日同組合鬼頭会長宮地副会長に対し同月二〇日付で解雇したいがと申し入れ、同人らから病院側の処置にまかせる旨の返答を得たことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。従つて本件解雇は前記乙第二号証により認められる就業規則第三六条の組合と協議の上解雇する旨の手続を経てなされたものと認められる。

六、以上の如く本件解雇の意思表示は有効であり、申請人は被申請人協会の従業員たる地位を有しない。又看護婦寮の居住、職員食堂、売店の使用は従業員たる地位に従属しているものと解するところ申請人は従業員たる地位を有しないのであるからそれらを利用する権利を有しないものと認められる。前記認定の如く本件解雇の意思表示は、昭和四〇年三月三日に効力が生じたものであり、申請人は被申請人協会に対し、同月四日以降の賃金請求権は有しないが、被申請人協会は同年二月二三日以降申請人の労務の提供の受領を拒否し賃金の支払をなしていない(この事実は当事者間に争はない)ので、申請人は被申請人協会に対し同日から同年三月三日まで九日間の賃金請求権を有する。しかし右賃金は少額であるものと認められるので仮に支払われるべき必要性があるとは認められない。

以上の如く、本件申請は、前記被保全権利が認められる賃金請求権を除いた部分は、いずれも被保全権利についての疎明がなく、右賃金請求権についてはその必要性についての疎明がなく、右各疎明に代えて保証を立てさせるのも適当とは認められず、いずれも失当であるので却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 浅野達男 寺崎次郎)

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